CALENDAR
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
SPONSORED LINKS
ARCHIVES
CATEGORIES
MOBILE
qrcode
<< 一週間で二万字書いてやろう4 | main | 一週間で二万字書いてやろう6 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
一週間で二万字書いてやろう5
 昼過ぎに目が覚めると、雨はまだ降り続けていた。やや落ち着いてきた雨音を聞きながら、ベッドで仰向けになったまま昨夜のことを思い出してみた。古書店で買った奇妙な本の中から紙切れが出てきて、それが人魚になって──。ギターを持ち出したあたりから記憶があいまいだった。だいぶ飲んだようで、明らかに二日酔いだった。ふと不安になった。まさか、あれは全て夢の中のできごとだったのでは。そう思った。
 あわててバスルームを覗いてみると、そこには誰もいなかった。──ということになれば、何も考えずに一日を過ごせるはずだった。しかし、あいにくなことにというべきか幸いなことにというべきか、僕の頭はそこまでおかしくなってはいなかった。
 昨夜の酒盛りの結果を映し出すかのように、バスタブには亜麻色の髪の人魚が腕を枕にイビキをたてているのだった。洗い場の床には焼酎の瓶が一本と、ラムのボトルが二本、空になって転がっている。どうりで二日酔いにもなるはずだ。
 寝ているのをいいことに、改めてシオリを観察してみた。腰まで届くサラサラの髪。やや吊り上がった柳眉に切れ長の目。尖った鼻と薄い唇が、冷たい印象を与える。くっきりと浮かんだ鎖骨の先から、陶器のような光沢を放つ腕が伸びて──。
 何の前触れもなく、シオリが顔を上げた。とっさに目をそらしたが遅かった。
「ケンジ。あなた、いま見惚れてたでしょ」
「い、いや。見てない」
 声が裏返った。見ていましたと答えたようなものだった。シオリの背中が大きく反り返って、尾びれが水面から伸び上がった。水でもかけられるかと思ったが、そうではなかった。単にアクビをしただけのようだった。
「まぁいいけど。おはよう」
「あ、あぁ」
「『あぁ』ってことないでしょ。朝は『おはよう』じゃないの?」
「もう朝じゃないよ」
「じゃあ、こんにちはね」
「それはちょっとヘンだ」
「それじゃ、こんばんは」
「もっとヘンだ」
 漫才をやる気はなかったので、本題を切り出した。
「僕はこれから学校に行かないといけないんだけど。その間、シオリはどうする?」
「ここで寝てる」
「退屈じゃない?」
「退屈って、どういう意味?」
 シオリの目が、興味津々といった具合に丸くなった。退屈という概念自体がないのかもしれない。僕は会話を切り上げて大学へ行くことにした。二日酔いの体に埃臭い私鉄の車両は厳しいが、今日の午後にはどうしても欠席できない講義が入っている。加えて、図書室に用があった。
「図書室?」
「本がたくさん置いてあるところだよ」
「それぐらい知ってるわよ。図書室に何の用があるのか訊いたの」
「キミを栞にもどす方法を調べようと思って」
「なによ。まだそんなこと言ってんの? ゆうべ、あれだけ楽しんだくせに」
「一緒に酒飲んでギター弾いただけだろ」
「ひどい。あたしの胸にさわったことも覚えてないの?」
 シオリが両手で乳房を覆った。どうも彼女は、こういう悪ふざけが好きなようだ。どこでもこうなのだろうか。中には冗談の通じない相手もいると思うのだが。
「絶対にそんなことはしてない」
「した」
「してない」
 たしかに記憶はおぼろだったが、僕がそういう人間でないことは自分自身がよく知っていた。
「ひとつ訊きたいんだけど。ケンジってホモなの?」
「何を言い出すんだ、いきなり」
「だって、あたしと一晩一緒にいて何もなかった男なんていないわよ。それとも何か障害でもあるの?」
「何もないよ。世の中の男がおかしいだけだ」
 僕は言い切った。おそらく、おかしいのは僕のほうだ。シオリは「ふぅん」と言ったきり、僕の顔を見つめたままだった。何か、理解できないものを見るような目だった。
「とにかく僕は学校に行くから。おとなしくしててくれよ」
 言い含めて、バスルームを出た。時間がなかった。顔を洗って歯を磨き、服を替えてカバンにノートや教科書を詰め込むと、急いでアパートを出た。靴を履くとき「行ってらっしゃい」という声を聞いたのには、なぜだか懐かしいような嬉しいような気分になった。
 雨の中を電車に揺られ、どうにか遅刻せずに済んだ。講義はひどく退屈な代物で、居眠りしないよう集中しているだけで終わってしまった。講義の間にペットボトルの烏龍茶を二本飲んだ。二日酔いがだいぶラクになった。
 講義のあとで、図書室に足を運んだ。僕の大学の図書室はちょっとしたもので、学外からも利用者が訪れる。膨大な蔵書の中からアンデルセンの『人魚姫』を探して読んだ。次に安部公房の『人魚伝』を読み、小川未明の『赤い蝋燭と人魚』を読んだ。どれも暗い物語だった。読まないほうが良かったかもしれない。
「よう、山本」
 不意に、声をかけられた。振り向くと、松田が立っていた。高校時代からの友人だ。おそらく、彼もまたシオリにかかれば「冴えない名前」になること間違いない。ただし、彼は僕より遥かに賢い。女性の扱いにも長けている。一方的にやられることはないだろう。彼は僕の手元を覗いた。
「未明か。珍しいもの読んでるな」
「ちょっと事情があってね」
「どんな事情だ? 面白い話だったら聞かせてくれよ」
 松田は隣に腰を降ろした。机に置かれた雑誌は、ナショナルジオグラフィックの最新号だった。彼は文系の人間だが、理系の知識にも精通している。雑学の知識も豊富だ。相談相手としては申し分なかった。
「最近、小説を書いてるんだ」
 そう前置きして、事情を話した。古書店で買った本の栞から人魚が出てきて、自宅のバスタブを占拠している。そういう小説なのだと説明した。酒が好きなところや神業のようなギターなど、すべて話した。小説の中の話だということにして。
「で、人魚を栞にもどす方法を考えてるんだ。名案はないかな」
「変わった話を書いてるな。俺なら人間にしてやるけどなぁ」
 松田は眼鏡のレンズを拭きながら、そう言った。
「それができれば苦労しないよ」
「シナリオを書き換えればいいだろうに」
「いや、それはできないんだ。栞から人魚が出てきただけでも馬鹿げた話なのに、その人魚を人間にするなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるだろ。できれば栞にもどして丸くおさめたいんだよ」
「なるほど。たしかに人魚が人間になるんじゃ、ありきたりだよな。……しかし、栞にもどす方法か。難しいな、そいつは。近い話があったかな」
 松田は真剣な表情で考え込んだ。映画監督をめざしている彼だから、物語のスジを考えるのは好きなのだ。読書量も半端なものではない。
「一つ思い出した。人魚じゃなくて悪いんだが、栞から亡霊が出てくる話なら聞いたことがある。やっぱり古書店から買ってきた本に挟まれてた栞で、出てきた亡霊が部屋に居つくってところまでは同じだ」
「最後はどうなった?」
「適当な本で幽霊を挟んでやると栞にもどった。で、本と一緒に焼かれた」
「あ、それは名案だ」
 思わず手を叩いた。試してみる価値はある。ただし、焼くのはやめておこう。しかし、即座に松田の指摘が入った。
「おいおい、剽窃する気かよ。そりゃマズイだろ」
「っと、そうか。その手は使えないってことだな。小説の中では」
「盗作はやめとけよ。あとはそうだな……、栞紐が竜になる話がある。見かけは巨大な竜だったが、ハサミで切ると紐にもどった。そこで主人公は目を覚まして、夢の中の話だったことに気が付いた。で、手元の本を開くと栞紐が二つに切れていた……って話だ」
「残念ながら夢の中の話じゃないんだよ」
「そうだったな。他にはちょっと思いつかない。本の中から悪魔が出てくる話なら良く聞くけどな」
「霊だの悪魔だの、ロクでもないものばかり出てくるな。人魚ならマシなほうか」
 亡霊が出てきてとりつかれるのに比べたら、美人の人魚がバスタブを占拠するぐらいは上等の部類だろう。問題は、その性格だったが。
「けどな、人の肉を食う人魚もいるぞ」
「あぁ、それは大丈夫だ。うちの人魚はケーキを食うから」
「しかし変わった設定にしたもんだな。全然人魚らしくないぞ、それ」
「まったく同感だよ」
 思わず溜め息をついた。松田は少し怪訝そうな表情を見せたが、何も言わなかった。いかに頭の切れる彼でも、僕の部屋に人魚がいるとは思いもしなかったのだろう。
 それにしても、小説を書いているというのは我ながらうまい言いわけだった。実際、僕は暇つぶしに詩や小説を書いたりするし、松田もそれを知っている。僕がどれだけ荒唐無稽な話をしたとしても、すべて作り話だと思うことだろう。罪悪感はあるが、キチガイだと思われるよりマシだった。
「ま、書き上げたら読ませてくれよ」
 そう言って、松田はナショナルジオグラフィックを読みだした。人魚の話には、これ以上興味がないようだった。僕は松田推薦の北欧民話集を借り出して図書室を後にした。人魚の話が収録されているらしい。
 校舎を出ると、すでに日も暮れて、昨日からの雨はやんでいた。強い風に押し流されていく灰色の雲をながめているうち、どこか漠然とした不安に苛まれた。何かの予感があった。あまり良くないことの起こる予感が。
 ラムと焼酎を一本ずつ買って帰った。ケーキ屋には寄らなかった。代わりに『人魚』を買った古書店に寄ってみると、シャッターが閉じられていた。僕は、斜向かいの仏具店で話を聞いた。そして、その古書店が雨の日にしか開かれないということを知ったのだった。



  ──以上、14005/20000




 今日一日で、あと6000字か……。きつー。推敲する時間もねぇじゃんよ。しかも、あと一章で終わりなんだけど字数が足りないヨ★カ★ン。というか、もうムリだね。ムリ。酒飲んで寝よ。


| Text | 00:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | 00:15 | - | - |
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://gimlet.jugem.cc/trackback/28
トラックバック