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『クロームドシティ』の世界1-3

 日付の替わる境界が、デュエルの開始時刻だった。残り四百万マイクロ秒。今までに五十人以上の相手を葬ってきたが、このカウントダウンの間はさすがに緊張する。喉が渇き、アドレナリンの味が舌の奥に広がる。観衆の声が聞こえなくなり、右手のLED以外なにも見えなくなる。──しかし、それら全ては勝利の前のかすかな瞬きに過ぎない。
 すさまじい勢いで減ってゆくカウンターが、あっというまに百万を切った。残り八十万マイクロ秒。短く息を吸って、止めた。脳の駆動音がうなりをあげた。
 カウンターがゼロになった刹那、セットされていたあらゆるコードが奔流となってケーブルを走り抜けた。最初にアイスブレーカー、次にダミーキラー、最後にキャンサー。一斉に、LEDが青くなった。八つのうち、七つまでが青く染め上げられた。わずか三百マイクロ秒。
 一つでもキャンサーコードが脳に入り込めば、その時点でデュエルは終わりだ。キャンサーは電脳の中枢を司るDNAプロセッサを癌化させ、爆発的に増殖させて腫瘍の塊にしてしまう。コンマ五秒ほどのできごとだ。苦痛を感じる間もなく、敗者はこの世を去ることになる。圧縮された時間感覚の中で、俺は目の前の男に無言の弔辞を手向けた。
 しかし、デュエルは終わらなかった。俺の発信したコードはマサキのコネクタを通過したとたん、一つ残らず叩き潰された。ゲートの向こう側に待ち構えていた無限回路にアイスブレーカーが取り込まれたかと見えるや、冷酷なICEがキャンサーもなにもかもを凍てつかせて粉砕したのだ。
 だが、俺はあわてなかった。攻勢防御はこのデュエルにおける代表的な作戦の一つでしかない。ここで無限回路を除去しようと仕向けるのが敵の狙いだ。無限回路がある限りこちらの攻撃も通らないが、向こうの攻撃も通らない。こちらがそれを除去しようとする隙を突いて自ら無限回路を放棄しケーブルを奪い取るのが、この作戦の主眼。チープなやりかただ。
 制圧した七つのチャンネルのうち六つにアイスブレーカーを流し続け、狙いを一つに絞った。無限回路除去ツールを走らせて、ロックした。と同時に、そのチャンネルを奪い取られた。回路を捨てたようだ。同時に貧弱なアイスブレーカーが流れ込んできたが、自家製のICEには傷ひとつ付かなかった。間髪おかず、解析コードが飛んできた。無駄だ。どれだけ優秀なハッカーだろうと、このICEを溶かすには四秒以上かかる。その間に相手は十回死んでまだ時間があまる。
 ここまでで一秒が経過した。戦況は六対二。圧倒的優勢だった。次の手も決まっている。今までにもこういう相手は何人もいた。慣れたものだ。十中八九、俺の勝ちだった。
 六極の無限回路に対して、膨大な量のデータを流し込んだ。データの隙間にはブレーカーをねじ込んだ。一秒ともたずに回路が吹き飛んだ。たちまち砕氷機が氷の壁を突き崩し、脆弱な電脳をあらわにした。これで終わりだ。一抹の慈悲もかけなかった。ダミーなどおかまいなしに、キャンサーを放り込んだ。
 逆転コードが待ち構えていた。致命の一撃となるはずのキャンサーは、いともたやすくコードを反転されて消え失せた。手馴れた感じさえ受ける防壁だった。無論、こっちも慣れている。あらかじめ逆転させたキャンサーコードを送ってやった。が、すでに逆転コードは消えていた。なかなか小細工をする相手だ。どうやら時間稼ぎが目的らしい。俺は正コードと逆コードのキャンサーをチャンネルごとに無作為変換して送り込んだ。今度こそ、間違いなく終わりだ。
 直後、八極回線が一つ残らずダウンした。LEDの光も消えていた。何事かと思ったが、すぐに理解した。マサキの電脳がシャットダウンされたのだ。ふざけた真似をしてくれる。どうやら、脳の中枢部は生体パーツらしい。
 だが、いずれにせよ電脳を破壊すれば俺の勝ちだ。再起動した瞬間、ICEも無限回路も役に立たないうちに脳を破壊してやる。セントラルフロストの公式ルールでは電脳をシャットダウンすることは一回に限り認められているが、三秒以内に再起動しなければ戦意喪失とみなされて敗北となる。即ち、ゲームオーバーだ。──さぁ、早く起動しろ。
 右手のLEDを見つめながら、三百万マイクロ秒をカウントダウンした。半分を数えたところで、ゲートの内側にマサキの放った解析コードが残っていたことに気付いた。排除すべきかと迷った。即座に、必要ないと判断した。こっちのICEを溶かされるより先に、ヤツの脳を破壊すれば済む話だ。負けるはずがなかった。
 戦意喪失と判断されるより一マイクロ秒だけ早く、マサキの脳が再起動した。同時に、八チャンネル全てにキャンサーを──その瞬間、右手の小指が疼痛を発した。キャンサーを放つコマンドは予期しない痛覚のノイズに乱されて、無効と判断された。
 脊髄に液体酸素を注入されたような気がした。あらゆるものを凍結させる、青い液体。
 全ては一瞬のうちに起こった。たった一つだけ赤く光ったLEDのチャンネルから、完璧に組み上げられたアイスブレーカーが入り込んできた。不沈を誇った俺のICEは、跡形もなく瓦解した。それでも、俺はあわてなかった。占拠したチャンネルにキャンサーを流し込んでやった。遅いのはわかっていた。マサキを見た。笑っている。三日前に地下街でぶつかった男だったことに気が付いた。その二千マイクロ秒後に、俺の脳はキャンサーに冒されていた。──脳幹中枢凍結。セントラルフロスト。右手のLEDが血のような赤に輝いて、あとはなにも見えなくなった。体が前に倒れてゆく感覚があったが、体を打ち付ける感覚は届いてこなかった。畜生。言おうとしたが、言葉にならなかった。ゲームオーバーだった。
| Text | 22:55 | comments(1) | trackbacks(1) |
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コメント

 ノリで書いたのでデュエルの設定が甘いです。もっと作りこむか、逆に抽象的にするかだなぁ。それより、こんなもん書いてるヒマあったら本編書け。


 さーて、吸血鬼祭どうしようかな。まだ一行も書いてないぞ。いいネタもないし。参加見送りかなぁ。
| 牛 | 2004/07/08 11:07 PM |
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『クロームドシティ』の世界1-3
| chat di incontri | 2007/04/29 7:18 PM |