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ハードボイルドの練習9
 五日間、事務所を出なかった。ターキーを飲み、マーティンを弾いた。それだけを繰り返した。気が向くとホットドッグを作って食った。酒も煙草も、ロイが買ってきた。
 帰ってくるたびにロイは愚痴を吐いた。エレンはヴァイオリン教室をやめたらしい。殺す機会がない、とロイは言った。相談を持ちかけられたが、何も助言しなかった。ロイは、毎日朝から晩までエレンを見張っていた。俺は一切かかわらなかった。
 五日目の夜、ロイが上機嫌で帰ってきた。無事に仕事を終えたという。銃を使ったと言いながら、グロックをテーブルに置いた。サプレッサーが付いていた。ハリーが貸し出したものだ。俺は、一つだけ助言することにした。
「他人の手の届くところに銃を置くな」
 グロックを手に取った。スライドを軽く引いて、弾丸が装填されているのを確かめた。ゆっくりと、銃口をロイに向けた。
「おいおい、やめてくれよ。怖いだろ」
 ロイは笑った。俺はグロックを向けたままだった。ロイの笑いが引きつった。
 束の間、考えた。ロイを撃つ。ハリーも殺す。どこか他の街へ姿を隠す。ギターを弾いて暮らす。悪くない考えだった。
 俺は笑った。ロイの笑顔が元に戻った。
 グロックをテーブルに放り投げた。さっさとハリーに返してこい。そう助言した。泡を食ったように、ロイは出ていった。
 俺はギターを抱えてソファに倒れ込んだ。フルハウスを弾いた。指がうまく動かなかった。ギターの先生にはなれそうもなかった。


      ──了
| Lesson | 04:51 | comments(4) | trackbacks(0) |
ハードボイルドの練習8

 ハリーの店にはロイが待っていた。
「おつかれさん」
 ロイが言った。
 無視して、いつもの席に座った。グラスとターキーが出てきた。開封されていないボトルだ。封を切ってグラスの上で傾けた。いい音が鳴った。ボトルの先は細かく震えていた。
 一口飲んで、切り出した。今回の仕事は下りる。そう告げた。
「失敗したのか」
 ハリーが言った。表情に変化はなかった。
 俺は、その問いには答えなかった。しばらく仕事を休むことにした、と説明した。説明になっていなかった。ロイが何か言おうとした。黙らせた。睨むだけで事足りた。
「いきなり休むと言われても困るな。代役がいない」
 ハリーが言った。俺はロイを指差した。
「俺にやれってのか」
 ロイが高い声をあげた。俺はナイフを出してロイの前に置いた。
「殺しなんて、やったことねぇ」
 俺は肩をすくめてみせた。知ったことか。俺は吐き捨てた。
「わけがわからねぇな。何があったんだよ、おい」
 ロイが肩に手をかけた。払いのけた。
 ハリーの目を見た。数秒、睨みあった。
「わかった。ロイにやらせる」
 ハリーが折れた。ロイが何か言いかけたが、結局黙り込んだ。両手で頭を抱えていた。
 俺はターキーのボトルを持って席を立った。
「どこに行くんだよ」
 ロイが言った。事務所だ。そう答えた。
「ここで飲んだって同じだろ」
 同じじゃない。ここにはギターがない。言葉にしようとしたが、やめた。
 ハリーが紙袋を投げてよこした。ターキーを入れた。大きく呷って、そのまま店を出た。
| Lesson | 23:55 | comments(0) | trackbacks(0) |
ハードボイルドの練習7

 一時間半が、あっというまに過ぎた。窓の向こうの街並みが暗くなって、夜になったことに気付いた。
「いけない。もう帰らないと」
 エレンが言った。ギブソンを俺に押し付けて、机に置きっぱなしのヴァイオリンをケースに詰め込んだ。ケースを両腕で抱えて、俺の前に立った。
「ねぇ、おじさんのギター教室はどこなの? 教えて」
 意外な言葉が出てきた。持ってない。そう答えた。
「じゃあ音楽学校で教えてるの?」
 俺は首を横に振った。普通、音楽学校にギター科はない。誰かにギターを教えたのも初めてだった。
「うそ。ギターの先生じゃないの?」
 今度は首を縦に振った。
「先生になったほうがいいよ。才能あるよ、おじさん」
 考えたこともなかった。何も答えられなかった。
「じゃあ、あたし帰る。またどこかで会えるといいね」
 言い残して、エレンは俺に背を向けた。
 俺はスーツの中に手を入れた。ナイフのグリップを握りしめた。それを抜き放つ、最初で最後の機会だった。右手でナイフを抜く。足音を殺して数歩近付く。左手でエレンの口をふさぐ。心臓を刺す。それだけだ。
「あ、そうだ」
 エレンが振り返った。右手が固まった。
「さっきの曲、何ていう曲だっけ」
 俺は答えた。フルハウス。
「ずっと練習したら弾けるようになると思う?」
 なるかもな、と応じた。
「なるもん。あたし、楽器の天才なんだから」
 エレンは得意げに胸を反らせた。俺は苦笑した。最後にもう一度「じゃあね」と言ってエレンは部屋を出ていった。
 固まっていた右腕を出した。指先が震えていた。ハリーの店へ行かなければ。






 セリフのやりとりになると文章が揺らぐなぁ。主人公(名無しさん)のセリフを鉤括弧に入れないようにしているせいで、微妙に読みづらい。さいわい、エレンのセリフと主人公のセリフを取り違えることはないので助かるのだが、人物が多い場面でこの手法は疲れそうだ。

 さて、このまま30話ぐらい続けられそうな状況にまでもっていったが、ここからどうしよう。あまり長くやっても意味ない気がするしな。
| Lesson | 18:08 | comments(6) | trackbacks(0) |
ハードボイルドの練習6
 ブザーが鳴った。定刻より五分早かった。俺はドアを開けた。写真の少女が、両手でヴァイオリンケースを提げていた。金色の髪に白のワンピース。写真と同じような服装だった。違ったのは、長い髪をリボンで束ねていることだった。細長いリボンが、髪より下まで垂れていた。
「エレン?」
 念のため、名を確認した。
「そうよ。おじさん、だれ?」
 開いたドアを隔てて、彼女は当然の問いを口にした。先生の代理だ、と俺は答えた。急病で入院したと説明した。実際は縛り上げて隣室に放り込んであった。
「それじゃ、今日のレッスンはお休みね」
 エレンが言った。満面の笑顔だった。ヴァイオリンは好きではないようだ。
「いや、残念ながら休みにはならない。俺が見るように頼まれた」
 芝居がかった仕草で同情してみせた。
「おじさんもヴァイオリンの先生なの?」
 うなずいた。それで納得したらしく、エレンは部屋に入った。俺は静かにドアをロックした。
 エレンがヴァイオリンを出した。弓を添えて、俺の前に突き出した。そして、言った。
「弾いてみせて」
 挑戦的な顔つきだった。俺はヴァイオリンを取って、肩と顎の間に挟んだ。やけに小さい。子供用のサイズだった。弓を弦に押し当てて、擦った。ひどい音が出た。ギターのようにはいかなかった。
「エレン、俺は作曲家なんだ。演奏は苦手だ」
 最後まで言うより先に、ヴァイオリンをひったくられた。エレンは、いきなり弾きだした。どこかで聴いたような曲が流れた。十歳の女の子とは思えない腕だった。
「いまの曲、なんていうか知ってる?」
 エレンは俺に向かって弓を突きつけた。まるで教師だ。知らない、と俺は答えた。こっちは出来の悪い生徒だった。
「バッハのソナタ二番よ。おじさん、本当に作曲家なの?」
 俺はうなずいた。古い曲のことは知らないんだ、と言いわけした。
「じゃあ何なら知ってるの? ピアノは弾ける?」
 エレンは部屋の角を指差した。アップライトピアノがあった。弾けない、と俺は答えた。
「何も弾けないんじゃない」
 屈辱的な言葉が飛んできた。ギターなら弾けると答えた。
「じゃあ弾いてみて」
 エレンが言った。俺は肩をすくめた。ここはヴァイオリン教室だ。
「あっちの部屋にギター置いてあるから。あたし取ってくる」
 走りだそうとするのを止めた。その場を動かないよう言い含め、隣室に入った。事務室だ。部屋の主が椅子に縛り付けられている。事務机の横にギブソンが立てかけられていた。男と目が合った。不可解そうな表情だった。俺はギブソンを拾って教室に戻った。
「何が弾けるの? ロックは弾ける?」
 エレンが言った。ジャズしか弾けない。
 モンゴメリーを弾いてみせた。エレンの顔に笑みが浮かんだ。
「これでいいか、エレン」
「合格。エリーって呼んでいいわ」
 認めてもらえたようだ。
「じゃあ、今日はその曲を教えて」
 エレンは、先刻と同じように俺の手からギターをひったくった。
「最初はどの弦を押さえるの?」
 その問いに答えておいて、俺は訊ねた。ヴァイオリンはいいのか。
「いいの。本当はヴァイオリンなんてやりたくないんだから」
 エレンはギターを鳴らした。慣れた手つきだった。俺は少し付き合う気になった。
| Lesson | 00:18 | comments(8) | trackbacks(0) |
ハードボイルドの練習5
 午後五時の地下鉄駅はビジネスマンと学生ばかりだった。夜が更ければ物騒な地下鉄も、この時間帯は安全だ。警察の巡回も少ない。いずれにせよ、今の俺には関係ない話だ。不精髭を剃り、髪を整え、糊の効いたスーツを着た俺は、誰が見ても立派なビジネスマンだ。職務質問される道理がない。たとえスーツの下にナイフを隠していたとしても。
 地下鉄で駅を四つ移動した。頻繁に使う駅だ。ここでは三人殺した。俺はゼロハリのビジネスバッグを右手に下げ、訪問営業員を装いながら歩きだした。見慣れたストリートだ。十分ほど歩いて、目的のヴァイオリン教室を見つけた。
 近代的なデザインのビルだった。エレベーターは使わず、階段で五階まで上がった。入居者のプレートを見ると、ヴァイオリン教室に中国語教室、それにパソコンスクールの名があった。ヴァイオリン教室は廊下の突き当たりだった。
 俺は時刻を確かめた。五時三十分だった。六時にターゲットが来る。ブザーを鳴らした。出てきたのは白髪混じりの初老の男だった。白いシャツに黒のスラックス。いかにも音楽家といった出で立ちだった。
 男が口を開くより先に、俺はこう言った。自分には娘がいる。ヴァイオリンを習わせようと考えているが教師は慎重に選びたい。よければ少し話をうかがわせてくれないか。
「このあと生徒が来るので……」
 言いながら、男は腕時計を見た。それから俺の身なりを見て、二十分ほどでよろしければどうぞ、とドアを開いた。礼を言って、中に入り込んだ。
 広い部屋だった。物が少ない。一目で室内全体を見渡すことができた。初老の男以外に人の姿はなかった。男がホワイトボードの裏から椅子を持ってきて、どうぞと言った。
 俺は男の言葉に従った。三分後にこの男が生きている確率は五割だった。今のところは。
| Lesson | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
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